「おそらくiPhoneは成功するだろう」(p.210)
このような、大胆な予測は、およそ本書に似合わず、
むしろ、著者は、関東学院大学経済学研究科の准教授
として、アップルへの好意的なまなざしを感じさせつつ、
すべからく批判的で分析的な思考が展開している。
例えば、iPhoneの前面タッチパネルの価値について
「これはユーザーにとってディスプレイであり、インターフェイスでもある。限られた空間を二重の意味で満たすことによって、価値を乗じたのである。」(p.135)
また、情報を囲い込むことでビジネスが成立していた環境に対して、
ウェブの発達により、情報の持つ価値が共有され希薄化されるという
傾向を見据えつつ、「だが、情報が直接的に金銭的価値に還元されることが、予め排除された社会システムを作り上げてしまっていいのだろうか。」(p.168)
と疑問を呈し、
「情報の持つ直接的価値がゼロになる社会を作ってはいけない」(p.177)
と結論付けている。
さらに、Web2.0について
「Web2.0とはウェブの理想的な姿(セマンティックWeb)がなかなか現出しない状況に業を煮やしたユーザが、統合的な世界標準規格や巨大なソフトウェア産業の力を借りずに、自分たちで擬似セマンティックweb、仮想セマンティックwebを作ろうとしている状況であり、ウェブの進化の歴史の中で転換点になる出来事だったことは間違いない。」(p.45)
と定義している。
著者は、セマンティックwebが理想であり、正常な姿であるという考えをもとに
主張を展開しているが、それがどのようなものかは、本書では明らかにはされていない。
そして、web2.0ビジネスで勝者になれる可能性のある企業とは、
「1.先行者で、オールマイティなニーズに対応できる大資本を持つ組織。2.自社でしか用意できないスーパーニッチを保有している組織。いうまでもないことだが、こうした製品やビジョンを保有している企業は、リアルにおいても十分に競争力を持つのである。web2.0はそのプロセスを円滑に進めるための手段として機能しているだけで、web2.0自身がビジネスを生み出しているわけではない。」(p.65)
上記の「web2.0は単なる手段説」は、『ビジョナリカンパニー2』の第七章「新技術にふりまわされない」で展開される、インターネットという新技術に対する態度と、その冷静さが、酷似しているように思われる。
岡嶋 裕史『iPhone 衝撃のビジネスモデル』(光文社, 2007)
0 件のコメント:
コメントを投稿